この仕事を、これからも

事業成就
小さなオンラインショップを一人で立ち上げて、今年で3年目になる。
最初の1年は赤字続きだった。
正直、やめようと思ったことも何度もある。
それが去年の終わりごろから、少しずつ注文が増え始めた。
今では、在庫の発注に、梱包、お客様からの問い合わせ。
朝から晩まで、何かに追われている。
ありがたいことだとはわかっている。
でも気づけば、その「ありがたい」と思う余裕さえ、なくなっていたのかもしれない。
神社どころか、まともに休みを取ることさえ久しくしていなかった。
学生時代は、就職や試験など何か大切なことがあるたびに、近所の神社へ手を合わせに行っていた。
起業してからも、事業の節目にはちゃんと参拝しておきたい。
そんな気持ちは、ずっとどこかにあった。
けれど、平日は梱包作業とお客様対応で一日が終わる。
土日も、撮影や仕入れの予定が詰まっている。
「時間ができたら行こう」
そう思いながら、もう半年以上が過ぎていた。
ある日、取引先との打ち合わせに向かう電車の中で、ふと思いついた。
「ご祈祷って、オンラインでもできるんだろうか」
半分冗談のつもりで検索してみると、リモートでご祈祷を受けられるサービスが見つかった。
乗り換えの待ち時間に、そのまま申し込んだ。
選んだのは「事業成就」。
こんなご祈祷があることも、そのとき初めて知った。
ご祈祷の当日は、次の打ち合わせに向かうタクシーの中だった。
イヤホンをつけて、ライブ配信につなぐ。
窓の外には、いつものように街が流れている。
車は渋滞につかまり、隣の車線ではトラックがゆっくりと進んでいた。
イヤホンから、祝詞が聞こえてくる。
運転手の視線が少し気になって、スマートフォンを膝の上に置いた。
神社の境内とは、ずいぶん違う。
こんなところで手を合わせていいんだろうか。
そう思いながらも、目を閉じて祝詞に耳を傾けた。
すると、ほんの数分だけ、仕事のことを考えていない自分がいた。
注文のことも、売上のことも、次の打ち合わせのことも。
ただ、ここまで続けてこられたことを思った。
最初の注文が入った日のこと。
何度も買ってくれるお客様のこと。
無理なお願いにも応えてくれた仕入れ先のこと。
一人で夜遅くまで梱包していたころのこと。
いつからか、注文が入ることも、荷物を発送できることも、当たり前になっていた。
でも、本当はどれも当たり前じゃなかった。
気づけば、ずいぶん遠くまで来ていた。
数日後に届いたお守りは、店の梱包作業台の隅に置いた。
それからも、毎日は相変わらず忙しい。
注文が入れば梱包し、問い合わせが来れば返事をする。
やることがなくなるわけではない。
ただ、ときどき作業の途中でお守りが目に入ると、ほんの少しだけ手を止めるようになった。
今日も注文があること。
今日もこの仕事を続けられていること。
ある夜、最後の荷物を梱包し終えて、お守りに目をやった。
今日は、ここまで。
そう決めて、パソコンを閉じた。
明日もまた、この仕事を続けていこう。