離れていても、みんなで父を想う日

祖霊祭
父が亡くなって、もう何年か経つ。
亡くなったばかりの頃は、命日が近づくだけで、家の中の空気が少し変わるような気がしていた。
母も、兄弟も、自然とその日のことを意識していた。
でも、年月が経つと、少しずつ日常に戻っていく。
自分は東京。
妹は大阪。
弟は福岡。
母だけが、今も父と暮らした実家で一人で暮らしている。
今年も父の命日が近づいてきた。
スマートフォンのカレンダーに入れていた予定を見て、
「もう、そんな時期か」
と思った。
家族のグループLINEに、
「今年、お父さんどうする?」
と送った。
妹は子どもの予定があり、弟も仕事で帰省は難しいという。
自分も、ちょうど仕事が立て込んでいた。
昔のように、みんなで実家に集まるのは、だんだん難しくなっている。
誰が悪いわけでもない。
それぞれに暮らしがあって、それぞれの日常がある。
それでも、
「今年は何もしなくていいか」
と思うと、何となく引っかかった。
何かできないかな。
そう思って調べているうちに、リモートで祖霊祭をお願いできることを知った。
これなら、みんなで参加できるかもしれない。
母に電話してみた。
「今年、お父さんの祖霊祭、みんなでやらない?」
「みんなで?」
「それぞれの家から。同じ時間につないで」
母は少し驚いていた。
「そんなことできるの?」
「できるみたい」
少し間があって、
「じゃあ、やってみようか」
と言った。
当日。
母は実家から。
自分は東京の自宅から。
妹と弟も、それぞれの家から。
同じ時間に画面を開いた。
画面の向こうで祝詞が始まる。
父の名前が読み上げられたとき、なんとなく背筋が伸びた。
父のことを思い出した。
よく怒られたこと。
家族で出かけたこと。
くだらないことで喧嘩したこと。
父がいつも座っていた場所。
そういえば最近、こんなふうに父のことをゆっくり思い出すことも少なくなっていた。
祖霊祭が終わってから、そのまま母に電話した。
「どうだった?」
母は、
「よかったよ」
と言った。
そして、少ししてから、
「みんなでお父さんのことを思い出す日があっても、いいね」
と言った。
その言葉を聞いて、お願いしてよかったと思った。
父のために、と思っていた。
でも、もしかすると今日は、
残された自分たちのための日でもあったのかもしれない。
電話を切る前に、母が言った。
「今度は、みんなで帰っておいで」
「うん。そうするよ」
電話を切ってから、家族のグループLINEを開いた。
「次、いつ帰る?」
久しぶりに、そんなメッセージを送った。