遠くの母を、安心させたくて

厄除け・厄払い
今年に入ってから、青森の実家に電話をすると、母は決まってこの話をする。
「あんた、今年前厄でしょう。ちゃんとお祓いしてもらいなさいよ」
41歳、数えで前厄。
来年は本厄になる。
母の世代からすると、これは軽く聞き流していい話ではないらしい。
「わかってるよ」
そう答えながらも、平日は仕事に追われ、休日も家族の予定が詰まっている。
そのうち行こうと思いながら、なかなか神社へ足を運べずにいた。
正直なところ、自分自身は厄年をそこまで気にしていたわけではない。
でも、電話のたびに心配そうな声で同じことを言われると、さすがに何もしないままでいるのも落ち着かなくなってきた。
母を安心させたい気持ちが半分。
自分自身も、ひとつの区切りとしてきちんとお祓いを受けておきたい気持ちが半分。
神社に行く時間を作れないなら、何か別の方法はないだろうか。
そう思って調べているうちに、リモートでご祈祷を申し込めるサービスを見つけた。
平日の夜、スマートフォンから自分の名前と住所を入力して申し込んだ。
これなら、できる。
そう思うと、ずっと後回しにしていたことが、急にひとつ片づいたような気がした。
ご祈祷は、日曜日の朝にお願いした。
家族がまだ寝ている時間に一人でリビングに座り、スマートフォンをテーブルに立てかけてライブ配信につなぐ。
テレビの音もない静かな部屋に、祝詞の声だけが響く。
玉串を捧げる所作を見ながら、なんとなく背筋を伸ばした。
いつものリビングなのに、その数分だけ、少し違う場所のように感じた。
厄年なんて、そこまで気にしていなかったはずなのに。
いざこうして手を合わせてみると、これまでの一年のことや、仕事のこと、家族のことが、ぽつぽつと頭に浮かんできた。
来年は本厄。
何があるかはわからないけれど、
まあ、元気に一年を過ごせたら、それでいい。
ご祈祷が終わるころには、不思議とそんな気持ちになっていた。
数日後、自宅にお守りが届いた。
その夜、青森の母に電話をかけた。
「ちゃんとお祓いしてもらったよ」
一瞬、間があった。
「そう。よかった」
電話の向こうの声が、いつもより少しやわらかく聞こえた。
それから少し話して、電話を切ろうとしたときだった。
「あんた、来年は本厄だからね。今度は忘れないで、ちゃんと早めにしなさいよ」
もう来年の心配をしている。
「はいはい、わかってるよ」
そう答えながら、思わず笑った。
電話を切ったあと、届いたばかりのお守りを手に取った。
お祓いを受けて安心したのは、
もしかすると、自分より母の方だったのかもしれない。
それなら、それでいい。
お守りを、いつも使っている鞄の内ポケットにしまった。